ポエムだぴょん!

No.8

2014/05/04

 初恋日記 外伝(Part 1 )

 中学の頃からずっと片思いを続けていたT子に想いを伝えるべく手紙を書き、そして玉砕したのは高1の3学期だった。それからしばらくは抜け殻のようになっていた。
 しかし俺には音楽がある! 結成したばかりのグループ『夢追人(ムード)も本格的に活動していきたいし、そのためにはギターももっともっと練習せねば。

 そんなわけで練習に明け暮れる日々。 
 フォーソング同好会の練習場所は数学教室と決められていた。放課後になると部員たちが三々五々集まって、思い思いのポジションで練習をしている。
 新学期になり俺は2年生に。そして新入生が入ってきた。我が同好会にも女の子ばかり数名が入部。先輩に言わせると「今年は豊作の年」だそうだ。確かにみんなかわいい! とりあえず張り切る(笑)。
 

 1学期の終わり頃、それは突然現れた。
 ある日の放課後。数学教室で練習しているとひとりの女の子が飛び込んできた!
 マッシュルームカットに銀縁メガネ、ちょっと小柄な体格・・・
 
T子そっくりだ!! 
 いやいや、よく見ると顔立ちとかぜんぜん違うんだけど、最初に見た時は息が止まるほど驚いた。フォークの新入部員M子の友だちで、用事があったらしい。

   これがナナとの出会いだった。

 その時は挨拶程度だったが数日後、朝の電車で彼女と一緒になり、初めて会話を交わした。清潔感のある、明るくてよくしゃべる子だった。
 「先輩はあんまりおしゃべりしてくれないかと思ってました(笑)」
 と笑顔で言われた。そんな恐そうに見えてたのだろうか、俺???

 

 その後何度か話す機会はあったが特には何事もなかった。
 あれは文化祭も済んだ2学期の後半だったろうか? 例によって練習をしているとナナが現れた。今日はM子はいない。何の用かと思ったら俺のところへ来た。
 「先輩、オリジナル曲があるんですってね?」
 「うん」
 「聞かせてもらえますか?」
 「うん、いいよ」

と気軽に受けたものの内心はドキドキ。だってライブで大勢の前で唄うのには慣れてきたけど、1人の女の子のために唄うなんて初めてだもの。
 『ラストレター』を唄った。T子への気持ちを綴った唄だ。唄いながら目の前に座っているナナの様子を見る。歌詞カードを見つめながら真剣な表情で聴いてくれていた。俺の大切な唄をこんなに真剣に聴いてくれるなんて!  唄っている俺の方が感激した。
 唄い終わると
 「いい曲ですね! 先輩の気持ちが良く伝わってきて感動しました」
と言ってくれた。
 「また聴かせてくださいね!」
と言って去って行った。
俺の中でナナの存在が大きくクローズアップされた瞬間だった・・・

 

 それから時々彼女と話すようになった。新年度を迎え、それぞれが進級した頃、彼女は同好会に入部した。演劇部と掛け持ちでそちらの方がメインだったからたまにしか来なかったけど・・・ 。彼女が現れるのが密かな楽しみになっていた。
 そんな中、ナナの親友M子からショッキングな情報を聞かされた。
 「ナナには卒業した先輩に好きな人がいるんだよ」
 言われてみれば思い当たる節が・・・。ナナとの会話でよく「先輩とどこそこへ行った」なんて話が出てくることがあった。
 なぁ〜んだ、彼氏がいたのか。本気になる前で良かった〜 ・・・なんて考えて自分を慰めていた。彼女とは友達でいいんだ、と・・・

 

 通学の電車の時間が一緒だったので朝よく駅で出会った。うちの高校は駅から歩いて30分近くかかる。たいていの生徒は駅から自転車かバス。俺は自転車派だった。
 しかし彼女は歩いて登校していた。なので一緒になった時は俺も自転車を押して歩いた。いろんな事を話しながら歩いた。学校までの約30分がとても貴重な時間に思えた。


 なんだかんだで時間は経ち、3年の2学期も後半になっていた。その頃になるとほぼ毎朝のように一緒に登校していた。ともすれば帰りも一緒だった。繁華街のある駅で途中下車し、彼女の買い物につきあったり、喫茶店でお茶して帰ることもあった。 雨の日にひとつの傘で帰ったこともあったなぁ。女の子との相合い傘はそれが初めてではなかったろうか?
 こうした下校時の電車での光景がのちに『初恋日記』という曲のモチーフになった。

 周囲には2人がカップルだと思っていた人もきっといたことだろう。 でも彼女には他に彼氏がいるんだよなぁ。あくまで友達 友達・・・そう自分に言い聞かせ続けていた。
 『ともだち』という曲を書いた。

 

 1月になった。ナナの誕生日は1月7日。彼女も冬の女。
「7日生まれだから“ナナ”なんだよ」
って本当とも冗談ともつかないことを言ってたっけ。
 プレゼントを用意した。最初は読書好きの彼女のために図書券をあげるつもりだったけど、雑誌で見た通販のペンダントにした。純銀製で星座の絵がついていて裏側にイニシャルを刻んでくれるという代物だ。彼女に渡すとすごく驚き、喜んでくれた。

 数日後、いつものようにナナと登校中。なんとなく話題はペンダントの話になった。何気なく俺は言った。
 「彼氏にもおそろいのを作ってプレゼントしてあげたら?」
彼女は答えた。
 「彼氏なんていないもん!?」
(えっ!?)
 な、なにそれ??
 思わず問いただしてわかったことは、
 「憧れの先輩はいたけど、ただそれだけだった」
 「会話に出てきた“先輩”は憧れの先輩とは別人で、お兄さんの友人のこと。それ以上の関係ではない」とのこと。
 もしそれが本当なら・・・いや本人が言うんだから間違いないんだろうけど、この数ヶ月間俺は何をやってたんだぁ!? 彼氏がいると思い込んで、一生懸命気持ちにブレーキをかけて友達として振る舞ってきて・・・・
 ものすごく時間を無駄にしてきた気がした。
 卒業まであと少ししかない。よーし、こうなったら・・・・・・・・・・・・

 

 1月27日。彼女に気持ちを打ち明けた。
 2年前の今日、俺はT子に振られた。いわば「失恋記念日」だ。なんとかこの日を別の記念日に変えたかった。勝率は五分五分・・・と思っていた。
 彼女は一生懸命言葉を選びながら返事をしてくれた。いろいろ言ってくれたが、ひと言で要約すると
 「友達のままでいたい」
ということだった。・・・・敗北。
 もしもっと早く彼氏がいないことを知り、ただ漠然と過ごしてきた時間をもっと有効に使うことが出来ていたら・・・もしかしたら違う返事をもらえたかもしれない・・・。そう思うとたまらなく悔しかった。
 しかし時間は戻らない。結局1月27日は二重の意味で「失恋記念日」になってしまった。この時の光景が『憧れのむこうに』という曲になった。

 

 2月に入ると我々3年生は受験のために自宅学習ということになり、学校へは行かなくなった。
 そんなある日の朝、電話が鳴った。ナナだった。「渡したいものがあるから夕方会いたい」と言って、待ち合わせ場所に俺の最寄り駅を指定してきた。
 夕方5時頃にまた電話があった。
 「5時28分の電車に乗るからね」
 
(※注 この頃はケータイなどない時代なので家電(いえでん)と公衆電話でのやりとりだ )
 時間に駅に行くと、程なく改札の向こうからナナが現れた。
 「はい、これ」と言って小さな包みをくれた。
 「1日遅れちゃってごめんなさい」
 昨日はバレンタインデーだった! 
 “友チョコ”ではあるけれど、その時の俺にとっては世界一貴重なチョコレートだった。

 ちなみに入試の結果だが、3年間ろくに勉強もせず音楽ばかりやっていた俺に受験の女神が微笑むわけもなく、浪人が決定した。

 

 3月10日。ついに卒業式を迎えた。
長いようで短かった3年間。悲喜こもごもの思い出の詰まったこの校舎とも今日でお別れだ。 体育館でのセレモニーが終わり、教室に戻って担任教師の短い挨拶があり解散となった。
 帰り支度をしていると廊下にナナの姿が見えた。
 「先輩、卒業おめでとうございます!」
 「ありがとう!」

卒業祝いだと言って図書券をくれた。
 「来年はお互いに受験頑張ろうね」
 と言ってナナは右手を差し出した。
 ちょっと照れくさかったが、その手をギュッと握りかえした…

 こうして俺は高校生活と、ナナとの淡い恋物語から“卒業”したのであった。

 

 

 P.S.
 俺の机の引き出しの奥には、少し色あせた1枚の図書券が今でも大切にしまってある…


 

もどる


ぴょんたの小部屋へ